学校で事故が起こった場合②

中学生のA君は,学校で友達とふざけていて転倒し,骨折してしまいました。治療費などはスポーツ振興センターからの災害給付金(詳細は前回のコラムをご参照ください)を受け取ることができましたが,さらに誰かに責任追及をすることができるでしょうか。

民事責任の追及

誰に責任追及ができるのでしょうか?

A君は日本スポーツ振興センターからの災害給付金を受け取ることができましたが,治療費が支払われた程度で,慰謝料などはないため,充分な補償を受けられたとは考えていません。それでは,A君とその両親は,誰に対して,どのような手段を取るべきでしょうか。この点,慰謝料などの損害賠償の支払いを求めるならば,民事責任を追及するということが考えられます。そこで,誰に対して損害賠償の支払いを求める趣旨の民事責任を追及するかが問題となります。

① B君を相手にする場合

A君がけがをしたことによる直接の加害者はB君です。しかし,責任追及の主目的を,慰謝料の支払いという点に絞った場合,中学生のB君に,A君に対する慰謝料を支払える経済力はないと言えるでしょう。したがってこの場合,仮に裁判をして勝ったとしても,A君が裁判で認められた金額の支払を受けることは事実上不可能です。それでは,B君に対して責任追及を行い,それが認められた場合,B君の親がB君に代わって慰謝料などを支払うべきだといえるでしょうか。この点,B君とB君の両親は,あくまで別個の個人ですので,B君が支払うべきとされた慰謝料などを,当然にB君の両親が支払うべきであるとは言えません。つまり,B君を相手とした場合,仮に裁判で勝ったとしても,実際に支払いを受けることは事実上難しいといえます。

② B君の親を相手にする場合

設例の場合,子どもたちは中学生ですが,これが小学生以下であった場合,B君本人ではく,B君の親を相手に,民事責任を追及することができることがあります。つまり,B君に民事責任を取ることができる能力,すなわち民法上の責任能力がない場合には,その親権者が監督責任を怠っていなかった場合を除いて,損害賠償を行わなくてはならない旨が定められています(民法714条1項)。

「赤ちゃんが投げたおもちゃが人にぶつかってけがをさせた」という例で考えてみましょう。赤ちゃんは,例え自分が投げたおもちゃで誰かがけがをしたとしても,おもちゃを投げることが「悪いこと」とは分かりません。それにもかかわらず,赤ちゃんに責任を追及することはナンセンスです。

しかし,赤ちゃんがおもちゃを投げることがあり,また,投げたおもちゃが人にぶつかれば,誰かにけがをさせてしまうこともある以上,その子の親がきちんと赤ちゃんの行動を監督していなかったとして責任を取るべきと言えます。民法714条の規定は,このような場合を指しています。

とはいえ,子どもはいつまでも赤ちゃんではなく,成長するにしたがって,段々と「人に物を投げてはいけない」ということを学んでいきます。そして,完全に「人に物を投げてはいけない。物を投げたら怪我をさせてしまうことがある」ということを理解した時点で,民法上の責任能力があると判断されます。

この「責任能力がある」とされる年齢については,裁判例からはおおよそ12歳程度であるとされています。したがって,ケンカなどの相手が小学生以下である場合には,直接の加害者である子どもの親に責任追及をすることができます。また,中学生以上の「責任能力がある」とされる子どもの親についても,親が子どもの監督を怠ったことと、第三者(設例ではA君)のケガとの間に因果関係があれば、監督責任を怠ったとして,親に責任を追及できる場合があります。

ただし,中学生以上の子どもの場合,子どもの世界は成長とともに広がるため,親が監督するといっても限度があります。したがって,親が監督責任を負う場合とは,もともと子どもに粗暴の傾向があるのに,適切な対応を取らずにそれを放置した場合や,親が子どもに「A君にケガをさせるように」と指示した場合などに限られると考えられています。少なくとも加害者が高校生以上である場合には,親が責任を負う場面は非常に限られているといえるでしょう。

それではA君は,学校や教師に責任を追及することができるでしょうか。これについては,次回以降,ご説明いたします。

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