不動産売買契約後に不具合が判明した場合

土壌汚染は,周辺の環境や人体への悪影響があり,また,不動産の資産価値を大きく下げるリスク要因です。

しかし,土地の土壌の汚染の度合いは,目で見ただけで判断することはできません。不動産を購入した後で,土壌汚染が判明した場合にはどのようにしたらよいのでしょうか。

また,土壌汚染だけではなく,不動産取引には「購入当時には分からなかった問題」が,購入後に判明することが多くあります。

今回は,土壌汚染のような「購入時には分からなかった問題」が不動産取引にどのような影響を与えるか,解説をしたいと思います。

1 契約不適合責任(瑕疵担保責任)

土壌汚染のように,「不動産購入時には分からなかった問題」については,売買契約における「契約不適合責任」の適用が問題となります。仮に,契約不適合責任が認められれば,買主は売主に対して損害賠償などの責任追及ができます。

そこで,まず契約不適合責任について解説しましょう。

「目的物の品質が契約の内容に適合しない」場合に契約不適合責任が追及できるとされています。文言こそ異なりますが,契約の趣旨を解釈して,目的物が契約の趣旨を達成できない場合に,売主に対して責任追及ができるということです。

とはいえ,考え方が少し難しいので,例えばエアコンを購入した場合で考えてみましょう。

エアコンが通常有するべき性質・性能⇒冷暖房機能

エアコンの購入者の思い⇒冷暖房機能を使いたい

契約の趣旨⇒冷暖房機能を備えたエアコンを売る

この場合,購入したエアコンの冷暖房機能が壊れていた場合,それは「瑕疵」または「契約不適合」であると言えます。

しかし例えば,冷暖房機能に加えて,省エネ機能も欲しいと思っていたエアコン購入者が購入したエアコンに,冷暖房機能には問題がなくても,十分な省エネ機能がなかった場合,それは「瑕疵」または「契約不適合」といえるでしょうか。

この点,エアコン購入者の「省エネ機能のついたエアコンを購入したい」という希望が,契約の内容になっていたかどうかで判断が分かれます。つまり,購入者が売主に対して,省エネ機能がないエアコンは嫌だというようなことを告げていたかどうかなどが争点になるでしょう。

このように,何が「契約の内容」であると判断するかは難しい問題を含んでいることも良くあります。

土壌汚染に話を戻すと,土壌汚染の事実は確かにあるものの,汚染物質は人体に全く無害であるような場合で考えてみましょう。この点,土地は人体に害がないならば通常の使用に問題はないとして,「契約の内容」に反しないという考え方もあるでしょうし,やはり気持ちのよいものではないし,土地の評価額も下がるおそれがあるとして,「契約の内容」に反するとする考え方もあるでしょう。

なお,一般的に,契約の内容に反する不具合(ここでは「瑕疵(かし)」といいます)の種類は以下のとおり4種類あると言われています。

① 物理的瑕疵

その名のとおり,売買の目的物に物理的な問題がある場合です。先ほど のエアコンの例で言えば,壊れていて冷暖房機能が働かない,不動産取引の場面では,雨漏りがする,シロアリがいる,などがこれに当たります。土壌汚染の場合も,物理的瑕疵に該当します。

② 法的瑕疵

法令によって自由な利用が制限されている場合,または法律違反の状態がある場合を指します。例えば,市街化調整区域にあって立て替えが難しい,建物が消防法や建築基準法に違反している,耐震基準を満たしていないなどが挙げられます。

③ 心理的瑕疵

物理的には何の問題もなくても,心理的な面においてその不動産に対する利用が阻害されるような場合です。以前にその不動産において殺人事件があったなどの場合が挙げられます。また,先ほどの土壌汚染の例で言えば,「人体には全く無害な物質が地中にある」「人体には影響がなくとも,心理的に嫌」ということは,心理的瑕疵に当たるかもしれません。

④ 環境瑕疵

例えば騒音や日照などに問題があるなど,不動産それ自体には何ら問題がなくとも,周囲の環境に問題がある場合を指します。

なお,例えば夜間に騒音がする不動産であっても,瑕疵担保責任でいうところの「瑕疵」に当たるには,「その不動産が,売買当時に予定されていた性質を欠き,契約の内容を達成できない」ことが必要となりますので,ご注意ください。

それでは,不動産に何らかの「瑕疵」があった場合,買主は売主に対して責任を追及できるでしょうか。

この点,旧民法下では,瑕疵は「隠れた」ものであることが必要でした。すなわち,売買契約当時,相当の注意を払っても発見できなかった欠陥が契約後に明らかになった場合に限り,買主は売主に対して損害賠償が請求できたのです。

しかし,改正民法下では,条文から「隠れた」という文言が撤廃され,契約不適合の事実が,「隠れた」ものである必要はなくなりました。とはいえ,買主が不具合の事実を知っていた場合にまで,責任追及をされるのは売主にとっては不合理であるといえます。

また,「契約の趣旨は何か」という観点からも,契約前に不具合について説明を受けていた場合,その事情を含めて「契約」と考えられますので,損害賠償請求ができると考えるべきではないといえます。

したがって,改正民法下では,不具合を知っていても契約不適合責任を追及できると考えるよりは,「相当の注意を払ってでも不具合を発見できなかった」という現行民法下の条件がなくなったという程度に考えるべきでしょう。

2 売主に請求できること

それでは契約後に,契約の目的が達成できないような不具合が明らかになった場合,買主は売主に対して何が請求できるでしょうか。

この点,現行民法では,損害賠償と契約解除が認められるのみでしたが,改正民法では,追完(不具合を直してもらったり,不具合のないものに交換してもらうこと)や,代金の減額を求めることができるようになりました。

また,損害賠償についても,現行民法下では履行利益,すなわち,不具合がないものを引き渡された場合との差額の損害程度しか認められていませんでした。しかし民法改正後は,信頼利益,すなわち例えば転売などで得られた利益なども損害として請求できるようになっています。

3 不動産取引における注意点

⑴ 売主の場合

改正民法は,買主の保護に力を入れたものとなっているといえます。したがって,不動産の売主には,これまで以上に売却予定の不動産の不具合について調査し,不具合があった場合には,買主にきちんと契約時に告知する必要があります。

また,改正民法の規定をそのまま適用すると,売主が負うべき責任の範囲が広すぎると思われる場合には,責任の範囲について特約を設定し,売買契約書において明記しておくなどの対策を取る必要もあるでしょう。

なお,売主には,契約時に売買契約をするにあたっての重要な事実については買主に説明する義務として,告知義務もあるとされています。

⑵ 買主の場合

改正民法においては,不動産の不具合が,「契約の内容に適合しない」ものであることが必要となっています。したがって,「契約の内容」が何であるのかが大きな問題となります。買主としては,何のためにその不動産を購入するのか,その目的を達成するにはその不動産はどのような条件を備えているものであることが必要かなど,具体的な考えを売主にきちんと伝えておくことが必要となるでしょう。

また,改正民法では,不適合の事実を知ってから1年以内に,売主に不適合の事実を通知しないと,損害賠償との請求権ができなくなるとされていますので注意が必要です

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