交通事故に遭ってしまったら②

Aさんは信号機のある交差点を車で直進中に,強引に右折してきた自動車と衝突し,頚椎捻挫,腰椎捻挫のケガを負いました。
そして1年間通院治療を行った結果,残念ながら後遺障害が残ってしまいました。
そこで,Aさんは相手方の自賠責保険の保険会社に対して,後遺障害の等級認定の被害者請求を行ったところ,Aさんには後遺障害12級が認定され,自賠責保険から後遺障害保険料として224万円が支払われました。

訴訟の提起

後遺障害の等級の認定がなされたら,裁判を提起するのが一般的です。
なぜ,後遺障害の等級の認定がなされるのを待つのかというと,症状固定後,後遺障害の認定が出てからでないと,被害者に生じた正確な損害額を把握するのが困難であるからです。
これは,交通事故による損害賠償請求は,後述する慰謝料額や逸失利益の計算方法などが,症状固定の時期や,後遺障害の等級に応じてほとんど画一化されているためです。
したがって,後遺障害の等級の認定が出るまでは,被害者としても正確な損害額を計算することができないのです。
このため,判例上,交通事故で損害賠償請求をするときの時効は,症状固定時から起算するものとされています。

人損

治療関係費

原則として事故発生日から症状固定までの治療にかかった費用を請求することができます。具体的には以下のような費用が請求できます。
① 治療費
実際に医療機関に対して支払った費用を請求できます。しかし,ムチウチなどの場合,病院ではなく接骨院などに通院される方も多いかと思いますが,接骨院や整骨院に支払った施術費については,医師の指示がある場合や,症状の改善に有効かつ相当な場合に認められる傾向があり,すべての場合に請求が認められるわけではないことに注意が必要です。
また,薬代や治療のために購入した医療器具代も請求できます。
② 通院交通費
通院のために支出した交通費を請求できます。
③ 文書代
診断書作成のために支出した費用を請求できます

休業損害

事故による入通院のために仕事ができなかった場合,休業損害を請求できます。実際に仕事による収入を得ていない専業主婦の場合には,賃金センサスに基づいて休業損害を計算します。
失業中の人の場合には,働く意欲があり,また,すぐに仕事が見つかっていたであろう蓋然性が高い場合には,休業損害が認められる傾向がありますが,認められる金額は低額になることが多いです。

後遺症による逸失利益

事故により,残念ながら後遺障害が生じてしまった場合,被害者の労働能力が一定割合喪失されたとみなされます。
例えばAさんの場合,後遺障害12級と認定されましたが,12級の場合,労働能力喪失率は14%とされています。
つまり,例えばAさんの事故前の年収が500万円であった場合,事故によってAさんは500万円の収入について,14%すなわち70万円を得る能力を失ったと判断されます。
この70万円が,Aさんの逸失利益であると考えます。

また,労働能力の喪失は働く限り,生涯続くと考えられますので,通常一般の人が働かなくなる年齢である67歳まで,事故によりAさんの減収はあるものと解されます(この期間を労働能力喪失期間といいます)。
ただし,逸失利益は理屈上,お給料が支払われるごとに発生するものと考えられるにも関わらず,裁判を起こすことでAさんは67歳までの逸失利益を一括して受け取ります。
その場合,Aさんは一括して受け取った逸失利益にプラスして,本来受け取るべきときまでの利息を得ることになります。
具体的には,Aさんが30歳の場合,67歳の時に受け取るべき逸失利益を30歳の時に受け取ることになるので,67歳の時に受け取るべき逸失利益70万円に,37年分の利息がつくのです。
確かにAさんは事故の被害者ではありますが,本来ならば受け取れない利息まで受け取るのは,社会正義に反するといえます。
そこでこの不合理を回避するため,中間利息の控除を行います。中間利息の控除には,ライプニッツ係数またはホフマン係数が用いられます。
それでは,具体的にAさんの場合,いくらが逸失利益になるかについてですが,以下のような計算式で計算を行います。
Aさんに用いられるべきライプニッツ係数はあと37年就労可能とする場合の16.7113です。つまり,
500万円×14%×16.7113=1169万7910円
が,計算上のAさんの逸失利益です。
ただし,Aさんに実際に減収が生じていない場合や,それとは逆に深刻な絵減収が生じた場合など,Aさんの具体的な状況に応じて,労働能力喪失率や,労働能力喪失期間については上記の例と異なる判断がなされることも多くあります。
また,計算の基準となる収入額は,被害者の実際の年収を基本としますが,被害者が専業主婦や学生など,事故当時に収入を得ていない場合は,賃金センサスを基準とします。

慰謝料

① 入通院慰謝料
実際に入通院をした期間に応じて,慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料については,①自賠責基準,②任意保険基準,③裁判所基準があります。これについては裁判所基準が最も高額の基準を採用しており,任意保険の基準は裁判所の基準の60%程度となっています。
このため,単に慰謝料の金額という点だけに限定してみれば,任意保険が提案する示談には応じず,裁判を起こして慰謝料を請求することが最もメリットがあると言えるでしょう。
② 後遺障害慰謝料
事故により残念ながら後遺障害が生じてしまった場合,それについても慰謝料を請求できます。
後遺障害の等級に応じて明確に慰謝料額が定められており,Aさんのように12級の後遺障害が生じた場合には,慰謝料として290万円を請求できます。

物損

物損として,以下のような費用が請求できます。
① 修理費
事故によって自動車を修理する必要が生じた場合,修理費を請求できます。ただし,経済的全損(自動車の時価が修理費の合計を下回る場合)には,自動車の時価以上の修理費の請求が認められない場合があります。
② 買替差額
事故によって自動車を修理するよりも買い替えた方が社会通念上相当であると認められる場合には,事故時の時価相当額と売却代金の差額が認められます。
③ 評価損
事故によって自動車の評価額の下落が見込まれる場合に認められます。
④ 代車料
事故による自動車の修理中に,レンタカーなどを利用した場合,レンタカー代が請求できます。

過失相殺

事故の態様によっては,Aさんに生じた損害の全額の支払いが認められない場合があります。具体的には,事故について,Aさん自身にも落ち度がある場合です。これを過失相殺といいます。
交通事故について,加害者と被害者,どちらに落ち度があるかの割合を過失割合といいますが,この過失割合についても,事故の態様に応じて,明確な基準が設けられています。
例えばAさんの場合,信号機のある右折車と直進車の事故ですので,直進車,右折車側ともに青信号だった場合に,過失割合の基本は直進車2:右折車8です。
しかし,これが例えば直進車に速度超過があった場合には,直進車側にプラス1割が加えられます(つまり過失割合は直進車3:右折車7となります)。
しかし事故の当時,直進車,右折車の信号がともに黄色だった場合には,過失割合は直進車4:右折車6となります。
このように過失割合は,事故の状況によって大きく異なります。このため,事故直後に,その状況をドライブレコーダーなどで正確に記録しておくことが重要です。

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