交通事故に遭ってしまったら①
自動車で道路を走行していたAさんは,信号機の設置されている交差点を直進しようとしましたが,強引に曲がろうとした右折車と接触してしまいました。
当面,相手方の任意保険会社から,治療費と車の修理代は支払われています。しかし最近になって,相手方の任意保険会社からは,まだ治療中なのに,治療費の支払いを打ちきると言われてしまいました。
治療費の支払いについて
治療費の支払いの打ち切り
交通事故において,加害者側の車両が任意保険に加入している場合,治療費や車の修理代については、事故の加害者側の保険会社が支払ってくれることが多いです。
このため,当面の治療費については,事故の被害者が負担することはありません。
しかし,通院が長引いてくると,相手方の任意保険会社から,「そろそろ症状固定ですので,治療費の支払いを打ち切ります」という連絡がくることがあります。しかし,Aさんは病院の主治医から,「もう少し治療をしたら,良くなるかもしれないから,頑張りましょう」と引き続いての治療を指示されています。
このような場合,どうしたらよいでしょうか。
そもそも「症状固定」とは,事故後の症状が,「これ以上治療しても症状の改善が見られない状態」に至ったことを指します。そして,症状固定の診断の後に残った障害が「後遺障害」です。しかし,これを判断するのは主治医であり,保険会社の担当者ではありません。したがって,保険会社の担当者から「症状固定なので治療費の支払いを打ち切る」と言ってきた場合でも,治療を打ち切ることは,体のためにもよくありません。
また,後に述べるように,交通事故による損害賠償請求を行う場合,通院期間に応じて,「通院慰謝料」の請求ができます。
このため,任意保険会社からの治療費の支払いが打ち切りになった場合でも,引き続き,治療を継続することをお勧めします。
また,任意保険会社から治療費の支払いについて打ち切りが提案された時点で,「示談」の申し入れがあるかもしれません。示談は早期解決ができる点は大きなメリットですが,このタイミングで保険会社から提示される示談金は,仮に裁判を起こしたときに得られる慰謝料などと比較して,低額であることがほとんどです。
したがって,任意保険会社から示談を提案されても,安易にそれに応じず,正当な補償が受けられる内容になっているか,慎重に吟味する必要があります。
健康保険などへの切り替え
それでは,治療費について,任意保険からの支払いが打ち切られた場合,どのようにしたらよいでしょうか。
この場合には,まずは健康保険に切り替えて,治療を継続するべきでしょう。健康保険を利用する場合,被害者が治療費を支払わなくてはなりませんが,後で加害者側に請求をすることができます。
交通事故などの第三者の行為によってケガなどを負った場合,治療費は全額,加害者が負担することが原則です。このため,病院が健康保険の使用に難色を示す場合もありますが,その場合には,「第三者行為による傷病届の届出をしている」と説明をして,健康保険への切り替えを行ってください。
第三者行為による傷病届の届出を行っておけば,本来,加害者側が支払うべき治療費を,健康保険側が一旦立て替えて支払い,後で届出に基づいて,加害者側に健康保険側から支払いを請求することになりますので,事故の被害者は健康保険を使うことができます。
後遺障害の申請
主治医の先生から,症状固定の診断が出て,残念ながら後遺障害が残ってしまった場合,その後遺障害がどの程度のものなのかについて等級を認定してもらうために,後遺障害診断書やレントゲン画像,診療報酬明細書を相手方の自賠責保険に対して送付を行い,後遺障害等級認定の申請を行います。
これには,相手方の任意保険会社に任せる方法(事前認定といいます)と,被害者自らが行う方法(被害者請求といいます)の2つの方法があります。
送る資料は同じなので,建前としては事前認定の場合であっても,被害者請求の場合であっても,同じ等級が認定されるものといえます。ただし,事前認定の場合,相手方の任意保険会社が「後遺障害は深刻ではない」というような内容の意見書を添付したりすることがあります。
また,後遺障害の等級認定がなされると,自賠責から一定の保険金が支払われるのですが,事前認定の場合,保険金が相手方の任意保険に支払われます。したがって,被害者がこれを受け取れるのは,加害者との間で示談が成立するなどしてからになります。
しかし,被害者請求を行った場合,後遺障害保険金は被害者が直接受け取れます。これは被害者にとって大きなメリットです。
このため,後遺障害認定の申請のための資料収集には手間がかかりますが,適正な等級認定と速やかな保険金の受け取りのために,後遺障害の申請は,被害者請求の方法によることをお勧めいたします。
ただし,被害者請求には手間がかかりますので,弁護士や行政書士に依頼をしたほうが確実であると言えるでしょう。
次回は,実際に加害者に対して裁判を行う場合についてご説明します。