養育費未払いと改正民事執行法
改正民事執行法が,令和元年5月10日に国会で成立しました。
これにより,養育費の不払いが少なくなるのではないかと言われています。
養育費未払いに悩む人には朗報と言えますが,具体的に何がどのように変わるのでしょうか。
現行民事訴訟法の問題点
そもそも民事執行法とは何を定めた法律でしょうか。
例えば裁判で「BはAに対して100万円を支払え」という判決が出たとしても,それだけでは,Bさんが任意に支払ってくれない以上,Aさんは100万円を手にすることはできません。
Aさんは自分でBさんの財産を調査し,見つけた財産に対して差押をしなくてはならないのです。
この手続きを「強制執行」といい,強制執行のルールについて定めた法律が「民事執行法」です。
しかし,現行の民事執行法では,Bさんの財産の調査については,Aさん自らが行うことが原則となっていました。
具体的にどういうことかというと,Aさんが裁判所に対して「Bさんの普通預金口座が○○銀行の△△支店にあるから,これを差し押さえて欲しい」「Bさんは◇◇会社に勤めているから,お給料を差し押さえて欲しい」と申立てを行わなくてはならなかったのです。
たとえ裁判に勝ったとしても,裁判所がBさんの預金口座や勤務先を調べてくれるわけではないのです。
このため,Aさんは手当たり次第にBさんの口座がありそうな金融機関に照会をかけたりしなくてはならなかったのです。
もちろん照会にかかる費用は有料で,Aさんの負担となりますので「裁判には勝ったけれど,お金は一銭もとれなかった」ということになることも多かったのです。
また,支払いをするべき人を裁判所に呼び出して,その財産の開示を求める「財産開示手続」という手続きも制度としてはありましたが,手続きに応じなかった場合の罰則などはなく,ほとんど意味のない制度となっていました。
改正民事訴訟法の概要
改正民事執行法では,「第三者からの情報取得手続」というものが新設されました。
これは,支払いをするべき人(設例ではBさん)の財産を調査するため,金融機関や勤務先など「第三者」から情報を取得できるという制度です。
それでは具体的に見ていきましょう。
勤務先の情報取得
養育費の不払いがあった時には,まず,財産開示手続を申し立てます。
財産開示手続を行っても,相手方の財産の状況が分からなかった場合には,市町村や日本年金機構に対して,住民税や年金の支払について情報提供を求めることができます。
住民税や年金は勤務先が支払いをしていることがほとんどですから,これにより,相手方の勤務先が判明するのです。
その他の財産情報の取得
また,相手方の財産を調査するために,登記所(不動産の調査),金融機関(預金の調査),振替機関(株式や投資信託の調査)について,情報提供を求めることができます。
これらの手続には,財産開示手続きを先に申し立てる必要はありません。
また,勤務先の情報を取得できるのは,養育費や婚姻費用の支払を求める場合や,交通事故など,生命や身体に対する損害賠償の支払いを求める場合などに限定されています。
しかし,その他の財産に対する調査については,特に養育費の支払を求める場合でないといけないなどという制限はありません。
改正民事執行法は令和2年春ころに施行される予定です。
これまでは支払いを求める側があてずっぽうで調査をしなければならなかった相手方の勤務先や預金口座などを,裁判所を通じて知ることができるのは,養育費の未払いで泣き寝入りをしてきた方にとっては,大きな光明となるでしょう。
これを機に,「どうせ支払ってもらえないから」とあきらめるのではなく,裁判手続きの利用を検討しても良いかもしれません。