【新型コロナ】事業用建物の家賃の支払いについて【5月6日現在】

新型コロナウィルス感染症の拡大を防止するために発令された緊急事態宣言に伴い,多くの事業者に営業自粛要請がなされています。
営業自粛を余儀なくされ,売り上げが前年比80%減,90%減という影響を受けている事業者も珍しくはありません。
そのような事業者にとっては,毎月支払う家賃や人件費などの固定費の負担はとても大きなものとなっています。

そこで本稿では,都内の飲食店をモデルケースに,新型コロナウィルスによる営業自粛と家賃の関係についてご説明いたします。

Q1 そもそも営業もできないのに,家賃は払わなくてはならないの?

ウチの店は,営業自粛を要請されたから,それに応じているのであり,結果として売り上げが減ってしまい,むしろ被害者です。それにもかかわらず,家賃を支払わなくてはならないのでしょうか?

A1 民法上,家賃の支払い義務はあります

民法上,家賃の支払いは賃貸物件の使用収益の対価であり,たとえ実際に店舗を営業できていないとしても,建物を店舗として利用できる状態にしている以上,建物を「使用している」と判断されます。
したがって,営業再開をあきらめ,建物を大家さんに明け渡さない以上,家賃の支払義務は発生し続けます。

Q2 家賃の支払いを免除してもらうことはできますか?

家賃は支払わなくてはならないとしても,その支払いを免除してもらったり,支払いを待ってもらうことはできますか?

A2 大家さんとの交渉次第でしょう

A1で回答したとおり,営業自粛中でも,建物を明け渡さない限り、家賃自体は毎月発生し続けます。
また,民法や借地借家法上でも,例えば「不可抗力により収益が賃料より少なかった場合には,賃料を免除する」というような規定はありません。
(なお,新民法609条には「耕作または牧畜を目的とする土地」については,不可抗力によって収益が賃料よりも少なかった場合には,賃料の減額を請求できるという規定がありますが,建物賃貸借については適用がありません)

おそらく賃貸借契約書上でも,「不可抗力による減収」について定めた規定はないことの方が多いでしょう。

しかし,法律に規定がないから,契約書に規定がないからというだけでは,家賃の免除や猶予が認められないということにはなりません。
たとえ契約書にないことであっても,家賃の免除や支払いの猶予について,大家さんと話し合いをすること自体は問題ありません。

大家さんとしても,一から新しいテナントを探すよりは,現在の借主に借りてもらったままで,家賃の支払いを待った方がメリットがあるとも考えられます。
先が見えない中,具体的にどのように交渉をすべきか,悩ましいところですが,どのくらいであれば支払いが可能であるのか,敷金(保証金)からの償却はどの程度可能なのかなど,率直に話し合いをしてみるべきでしょう。

Q3 どうしても今の家賃をそのまま払うことはできないので,家賃を減額してもらうことはできますか?

A3 法律上、家賃減額の請求をすることはできますが,まずは大家さんと交渉をするべきでしょう

借地借家法32条では,建物の家賃について,固定資産税等の負担が増減したり,地価や建物の価格が増減するなど,経済事情が変動したり,付近の同種建物の賃料と比較しても大きな開きが出てきたりした場合には,賃料の増減額が請求できるという規定があります。

今回の新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴う一連の問題によって,今後,長期間にわたり経済事情が冷え込むことも予想されますので,それを「経済事情の変動」として,家賃の減額請求を行うこと自体は可能と言えるでしょう。

ただし,この規定は「将来に向かって減額を請求することができる」規定であり,家賃の減額が決定されるまでは,これまでと同じ金額の家賃を支払わなくてはなりません。
また,実際に家賃減額請求を行うとすると,(大家さんと話し合いで決着がつかないならば)裁判所に調停を起こさなくてはなりません。また,今後,社会がどうなっていくのか予想がつかないことから,適正な家賃はいくらであるのか,検討するには長時間を要するでしょう。

したがって,借地借家法上の家賃の減額請求はスピード感に欠け,「今」苦境に立たされている事業者の方には,あまり意味のないことかと思います。
しかし,A2のとおり,大家さんと交渉することは可能ですので,まずは率直に交渉をしてみるべきでしょう。

Q4 どうしてもどうしても家賃を支払うことはできません。店をたたんで,建物から出ていかなくてはならないのでしょうか。

A4 建物賃貸借契約の解除はできない可能性もあります

建物賃貸借契約を解除するには,単に債務不履行があるだけでは足りず,その債務不履行が賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊するに至っている必要があります。
そこで,自粛要請に応じて営業を自粛したことにより売り上げが減少し,結果として家賃が支払えなくなったことは,賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊するに至っていないといえる余地があるでしょう。

しかし,大家さんから家賃の支払いを催促され,それでも無視し続けていたような場合には,信頼関係が破壊されたと解されることもありますので,どうしても家賃を支払えない場合でも,うやむやにせず,大家さんと相談してみるべきでしょう。

大家さん側としても,建物のローンの返済に家賃収入を充てていることが多く,借主からの家賃収入が全く閉ざされては,大家さん側の死活問題にもなります。
また,大家さんがローンを払えなくなって,建物が競売に出されて落札されたら,場合によっては賃借人も建物から出ていかなくてはならないことになります(民法395条。もともと抵当権が付いていた建物を借りた場合など)。これでは結局,大家さんも店子も共倒れになってしまいます。

政府でも自粛要請に応じた事業者に対する家賃支援について協議がなされています。スピード感のある対応を期待したいと思います。

以上

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