相続の手続き どれを選ぶべき?
Aさんの夫であるBさんは先日亡くなりました。Aさんの自宅はBさん名義であり,Aさんはこれからも自宅に住み続けたいと思っています。しかし,Bさんの死後も,Bさんにお金を貸していたと思われる債権者から,督促状が届くなどしており,BさんにはAさんの知らない借金がたくさんあったのではないかと不安です。また,Bさん名義の自宅不動産には銀行を債権者とする抵当権が設定されています。
1 相続の3つの種類
相続の種類には,以下の3つがあります。
① 単純承認
② 限定承認
③ 相続放棄
以下,それぞれの手続きについて,順を追って説明いたします。
① 単純承認
単純承認とは,被相続人(Bさん)の遺産について,プラスの財産もマイナスの財産も,全て相続するというものです。したがって,仮にマイナスの財産の方が多かった場合には,相続人(Aさん)が被相続人の残した借金を支払い続けなくてはなりません。
② 限定承認
限定承認とは,被相続人にマイナスの財産があった場合,プラスの財産の範囲内で相続するというものです。たとえば,被相続人にプラスの財産100万円,マイナスの財産(借金)1000万円があった場合,プラスの100万円を借金の支払に充てればよく,相続人がプラスの財産100万円を超えて、自分の財産を、相続人が残した借金の支払いに充てる必要はありません。
③ 相続放棄
相続放棄とは,その名のとおり,一切の財産を相続しないというものです。
2 どの手続きを選ぶべきか?
それでは,具体的にAさんはどの手続きを選ぶべきでしょうか。
①単純承認した場合
AさんはBさんのプラスの財産もマイナスの財産も全て相続することになります。したがって,Bさんの借金が予想以上に多かった場合でも,Aさんはこれを返済していかなくてはなりません。
モデルケースの例では,Bさん名義の自宅は抵当に入っているとのことですので,抵当権が実行されて,自宅が競売にかけられたら,Aさんは自宅から出ていかなくてはなりません。
②限定承認をした場合
AさんはBさんのプラスの財産をすべて,マイナスの財産の支払に充てなくてはならないのが原則です。そのため,債権者に対して債権を届け出るように通知したり,官報に掲載したりしてマイナスの財産を把握する一方で,保険を解約したり,骨とう品や自動車など,値打ちのある物を換価したりしなくてはならず,非常に手間がかかります。
しかし,Bさん名義の財産のうち,どうしても手元に残したいものがある場合,それを先に買い取ることができるのが,限定承認の大きなメリットです。つまり,モデルケースの場合,AさんがBさん名義の自宅を買い取ることができれば,Aさんはこれまでどおり,自宅に住み続けることができます。
③相続放棄をした場合
相続放棄は簡単にできますが,AさんはBさん名義の自宅からは出ていかなくてはなりません。他方で,相続放棄をしたとしても,他に相続人がいない場合には,Aさんには自宅を管理する義務が残ります。例えば,誰も済んでいない自宅だった建物や庭木の管理は,Aさんが行わなくてはなりません。
このように,相続においてどのような手続きを選ぶべきか,それぞれメリットとデメリットがありますので,慎重に判断するべき問題です。