不動産投資詐欺にあったかもしれません
Aさんは会社の同僚から紹介されて,不動産業者から不動産投資についての営業を受けました.
業者が言うには,「マンション投資は家賃収入が入るため,非常に効率がいい投資である」「この物件は中古だけど,人気エリアの駅近のワンルームマンションだから,資産価値は落ちないし,利回りもいい」として,具体的なシミュレーションを示されました。
もともと資産運用に興味を持っていたAさんは,不動産購入について前向きに検討するようになり,業者からワンルームマンションを1件,購入することにしました。
しかし,業者がシミュレーションに用いた家賃相場は高すぎて,全く入居者がつかなかったため,Aさんは予定よりも安い家賃で人に貸さざるを得ませんでした。このため,当初の想定よりも低い利回りで運用しています。
Aさんは話が違うと思い,業者に連絡をしてみましたが,「不動産投資は水物だから」などと話をそらされてしまいます。
このため,Aさんは業者に騙されたのではないかと思うようになり,契約を解除できないかと考えています。
クーリングオフ制度について
クーリングオフ制度とは,消費者を保護する目的で,いったん契約の申し込みや契約の締結をした場合でも,契約を再考できるようにし,一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり,契約を解除したりできる制度です。
高齢者がキャッチセールスで,不要な買い物をしたときになどに使われる制度でもありますので,テレビなどで聞いたことがある方も多いかもしれません。
このクーリングオフ制度が,不動産投資にも使える場合が宅建業法に定められています。(なお,キャッチセールスの場合に使われるクーリングオフは特定商取引法に規定されています。)
具体的には,宅建業法37条の2で,
①宅建業者が自ら売主となる宅地や建物の売買契約について
②売主である宅建業者の事務所等以外の場所において,買受けの申込みや契約を締結した買主は
③クーリングオフができることを告知されてから8日が経過する前で
④引渡や代金の支払前であれば,書面により,申込みの撤回や契約の解除をすることができるとされています。
例えば,
①売主が宅建業者であり,
②喫茶店などで契約書を作成したときは,
③クーリングオフができることを告知されているならば8日以内で
(クーリングオフについては,契約書または重要事項説明書に記載されていることが多いです。なお,クーリングオフについて告知されていなければ期間の制限はありません),
④引き渡しや代金支払いをしていない間に,不動産売買契約について、クーリングオフをするという趣旨の文書が相手方に届けられれば,契約の解除をすることができます。
クーリングオフの制度が有用なケースとは,「強引に業者に押されて,近くの喫茶店で契約したけれど,一晩考えたらやはり解約したくなった」というような場合が典型的です。
Aさんの場合は,実際に代金を支払い,マンションの引き渡しを受けているので,残念ながら,クーリングオフの制度を利用することはできません。
消費者契約法について
不当な勧誘を受けて契約を締結した際には,消費者契約法に基づき,契約を取り消すことができます(消費者契約法4条)。
以下のような勧誘が,「不当な勧誘」と規定されています。
① 重要な事項について,事実と異なることを告げた場合
② 将来の不確実な事項について,断定的な判断を行った場合
③ 不利益になることを言わなかった場合
④ 家に帰りたいのに帰してくれなかった場合
⑤ 家を訪問されて,帰って欲しいのに帰ってくれなかった場合
⑥ 通常の量を著しく超える分量の購入を勧められた場合
⑦ 社会経験の少なさに乗じて,進学や容姿について不安をあおったり,恋愛感情を利用した場合
⑧ 加齢等による判断能力の低下を利用した場合
⑨ 霊感などを用いて不安をあおった場合
⑩ 契約前に債務の内容を実施した場合
Aさんの場合,業者から高すぎる家賃を想定したシミュレーションを示されたことが,事実と異なることを告げた場合や,将来の不確実な事項について,断定的な判断を行った場合,不利益になることを言わなかった場合にあたる可能性があります。
そうであれば,Aさんは消費者契約法に基づいて,契約を取り消すことができると言えそうです。
他方で,消費者契約法は,あくまで事業者よりも知識や経験が劣る「消費者」を保護する趣旨の法律です。
そこで,「不動産投資家」であるAさんが「消費者」であるとして,消費者保護法の適用があるかが問題となります。
この点,不動産投資用のマンションを購入した人は,「消費者」ではなく「投資家=事業主」であるとして,消費者契約法の保護の適用外だとする考え方も強くあります。
しかし,東京地裁平成24年3月27日判決では,不動産投資用のマンションについて,消費者契約法に基づいて契約の取り消しを認めた判例があります。
この判例の射程が,何棟も不動産を所有し,不動産投資で生計を立てているような人にまで及ぶかは今後の議論の蓄積を待つ必要があります。
しかし,少なくとも,初めて不動産投資を行う方については,消費者契約法が適用される余地があるものと言えるでしょう。
詐欺について
それでは,Aさんが業者を詐欺だと訴えることはできるでしょうか。
Aさんとしては,実際よりも高いシミュレーションを示され,ワンルームマンションを購入させられたのですから,「詐欺だ」といいたい気持ちが強いかもしれません。
しかし,法律上,詐欺が認められるには,Aさんの側で,業者が「初めからAさんをだまそうとしていた」ことを証明しなくてはなりません。
これは非常にハードルが高い作業であり,詐欺が認められるのは難しいという覚悟が必要でしょう。
以上