子どもが児童相談所に一時保護されました③

Aさん,Bさん夫婦の子どもである小学3年生のCくんが,学校からそのまま児童相談所に「一時保護」されました。
AさんやBさんには,Cくんが児童相談所に保護されるような心当たりは全くありません。それにもかかわらず,子どもを返さない児童相談所の対応には大きな不満があり,児童相談所に対して何らかの手続きが取れないか考えています。

それでは,何ら理由がないにもかかわらず,児童相談所が子どもを返さない場合,親権者としてどのような対応が取れるのでしょうか。

一時保護に対する不服申し立て

一時保護は児童相談所長または都道府県知事の判断で,親権者(親権者ではなくても,実際に子を監護している人のこともあります)の同意を求めなくても行うことができます。
お子様が一時保護された場合,親権者の方は,児童相談所から「一時保護決定通知書」の交付を受けることでしょう。

一時保護決定通知書の下部に,「この決定に不服がある場合には,この決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に○○都道府県(その児童相談所のある都道府県)知事に対して,審査請求をすることができます」「この決定については,この決定があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に,○○都道府県知事を被告として,処分の取り消しの訴えを提起することができます」との記載があります。

これはそれぞれ,前者を行政不服審査,後者を行政事件訴訟といいます。

行政不服審査は,行政庁(ここでは児童相談所)が行った処分(ここではお子様を一時保護すること)について,審査庁が指名した審理員が審理を行う手続きです。
他方で行政事件訴訟は,行政庁がなした行政処分について,裁判所がその取り消しを行うかどうかを判断する手続きです。

手続きの利用のしやすさという点からいえば,裁判手続きより,高度の専門性を必要とする行政事件訴訟を利用するよりも,行政不服審査を利用する方が良いかもしれません。
行政不服審査制度それ自体も,市民の皆様の利用のしやすさを目的のひとつとした制度です。

しかし,児童相談所による一時保護に関していえば,行政不服審査もあまり実効性に乏しいものといえます。
これはどういうことかというと,児童相談所による一時保護の期間は,原則として2か月を上限とすることが定められています。これに対して,行政不服審査を行った場合の審査機関は約半年程度とされています。
つまり,行政不服審査の手続きを行っている最中に,一時保護期間が終わることが起こりうるのです。

一時保護期間中は,お子様の家庭復帰に向けて,児童相談所と協議を行い,保護者として家庭環境を整えていくべき期間であると考えます。
しかし,保護者の方が,行政不服審査に集中してしまうと,児童相談所と必要な協議を行うことができず、いたずらに一時保護の期間が長引くおそれがあります。

このため,児童相談所による一時保護については,行政不服審査請求を行っても,
①最終的な結果が出る前に一時保護が終了する場合がある
②行政不服審査請求を行ったばかりに,一時保護が長引く可能性がある
という2点から,実際に行政不服審査を行うかは慎重に判断する必要があるといえます。

一時保護延長について

一時保護は2か月を超えてはならないのが原則であり,もし,2か月以上一時保護の期間が必要であるという場合には,児童相談所長または都道府県知事は,家庭裁判所の審判による承認を得る必要があります。
一時保護は児童相談所長が独断でできてしまいますが,延長の際には児童相談所の判断が適切かどうか,司法のチェックが入るのです。
保護者の方は,この手続きに参加して,意見を述べることができます。

一時保護に不服があり,また,一時保護の期間が長引きそうである場合には,保護者の方は,この「引き続いての一時保護承認審判」の場において,児童の親権者として手続きに参加し,一時保護の延長が不当であることを主張することができます。

また,保護者の方の主張にもかかわらず,引き続いての一時保護の承認審判が出された場合には,保護者の方は不服申し立てとして,高等裁判所に対して即時抗告を行うことができます。
即時抗告を行うことのできる期間は,承認審判の告知を受けた日から2週間以内です。

児童福祉施設などへの入所について

一時保護の後,児童相談所が子どもを児童福祉施設などに入所させるべきであるとの判断を行い,また,その判断に保護者が同意しない場合には,児童相談所は家庭裁判所に対し,児童福祉法28条1項に基づき,子どもを児童福祉施設等に入所させることについて承認にかわる審判を行うように求めることができます。
これがいわゆる「28条審判」です。

28条審判においても,引き続いての一時保護承認審判と同様,保護者の方は反対の意見を述べることができます。
また,28条1項の承認審判が出されたとしても,保護者の方は,高等裁判所に即時抗告を行うことができます。

児童福祉施設への入所に対する不服申立て

子どもが児童福祉施設への入所することになった場合,施設入所はそれ自体が行政処分ですので,先述の一時保護に対する不服申し立てと同様に,行政不服審査及び行政事件訴訟を行うことができます。

国家賠償請求の提起

児童相談所の対応などに違法性がある場合には,国家賠償請求を提起し,慰謝料などの請求を求めることも可能です。

 

このように一口に「児童相談所と争う」といっても,取りうる手段は様々です。

それでは次回のコラムでは,一時保護の正当性を争う際に,保護者として具体的にどのような主張を行うことが望ましいのか,当職の考えをお知らせします。

以上

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